バンドはラーメンだ、っていうけどさ。
「バンドっていうのは、ラーメンだ。」
そういう例え話を聞いたことがある、ライブの打ち上げか何かだったかな。
偉そうな先輩のおっさんが、酒を片手に語ってきた、嫌いな奴の話に納得してしまっただけに、この話はよく覚えてる。
ボーカルはラーメンで言うところの麺らしい。
そしていわゆるリズム隊と呼ばれるベースとドラム、これはスープ。
最後にギターやキーボード、また他の楽器(バイオリンとか)、これが具なんだとさ。
初めて聞いたとき、すごく納得できる話だと思った(興味を示したと思われるのが嫌なので、もちろん顔には出していないが)
しかし、その表情の奥の興味を悟ったのか、おっさんは話を続けた。
とりあえず、スープが美味しくて麺がしっかりしているなら、美味しいラーメンと言えるだろう、トッピングは最悪残せばいい。
しかし、そこにとろけるチャーシューや、きらめく半熟の味玉があればどうだろう、ラーメンの世界は10倍にも20倍にも広がるというものだ。
そして、このことはすごくバンドというものと共通点が多いんだとさ。
まぁ、バンドやってる自分もよくわかってはいるが…
どれだけ演奏が上手くて、楽器隊のパフォーマンスがカッコよくてもお客さんたちが一番見るのはボーカルだ、そしてラーメンというのは麺を食べるものだ。
これは納得、では他はどうだ。
バンドの音を支えるのがベースとドラム、いわゆるリズム隊というやつだ。
リズム隊をスープと形容するのも確かにうなずける。
どれだけ麺やトッピングに拘っても、スープが不味ければすべてが台無しだ。
バンドの完成度の低さを物語るのはベースとドラムで、完成度の高さを物語るのはギターやボーカル、そんな話もあったっけな。
最後にギターやキーボードなどのいわゆる上音と呼ばれるものが具、トッピングだ。
コードを弾くだけなら、多少スープ要素もあるが、やはりトッピングの方がしっくりくる。
なくても良いがあるともっと良い、そしてシンセサイザーといったものもあるので、その音の数は無限に広がる、チャーシューや味玉だけではない、ホウレン草やコーンなど、トッピングにだって無限の可能性があるではないか。
ボーカルのカリスマ性、リズム隊の安定感、そしてギターやキーボードが、そこにさらなる広がりを加える、そしてそのどれもが一級品で初めて良いバンドになる。
麺、スープ、トッピング、その全てに拘って初めて人気のラーメン屋になる。
(バンドマンに、ラーメン好きが多いのは似た者同士だからなのかもしれないな)
とまぁ、偉そうにバンドをラーメンと例えるおっさんの話に納得してしまったわけだが…
(いや、お前売れてねぇじゃん)
って、真っ先に思ってしまった、おっさんには悪いが…
そんな偉そうなこと言うのは売れてから言えばいいと思う(まぁ俺たちも売れてないんだけど)
(やっぱ打ち上げはあんまり好きじゃねぇや、おっさんの戯言をきく時間があるなら練習や作曲、次に繋がることを考える方が何倍もマシだわ…)
なんて思いながら挨拶をした後の帰路にて、ふと思いだした事がある。
バイト先で後輩に注意した矢先に、自分も同じことで先輩に怒られたことを思いだした。
そのときの後輩のしてやったりな顔と言ったらもう忘れられない、本当に腹が立つ(その後輩とは仲は良いぞ)
まぁ、でもその時気づいて注意できるのは俺だけだったし仕方がない。
それに「俺だって出来てないんだけどな」なんて言葉を付け加えれば、説得力はどうなる。人から嫌われないように振る舞うにはそれがベストなのだろうが。
「自分もできてないくせに、他人に物言いすることは不適当。」
なんて思ってたけど、そう決めつけることこそ不適当なのかもしれないな。
売れてないおっさんの助言で、売れるやつが現れるかもしれない。
仕事ができないやつの助言で、誰かが成長するかもしれない。
その助言を反面教師に、そいつ自身が成長するかもしれない。
「どんどん言ってやろうじゃないか、自分ができてるかはともかく」
うむ、それでいいんだろう。
バンドはラーメン。麺・スープ・トッピング全てが整っていてやっと一人前になる。
早く帰って、ギターを弾こう、今日はそんな気分だ。
…いや、ラーメンを食ってから帰ろう、やっぱりそんな気分だ。